第一回メディテーションワークショップ

ふと我に帰って辺りの景色を見回すと、今自分がとても不思議な場所にいることに気づきました。その建物はまるで小舟のように池の上に浮いており、真夏の強い陽射しが水面を照らし、反射した光がひさしにゆらゆらとした波の模様を作り出しています。まるで建物がゆっくりと水の上を進んでいるようにも感じられます。窓のずっと向こうには、深い緑の木々と都会の高層ビル群が目に入ります。

ここは江東区の清澄庭園の中にある数寄屋造りの建物、「涼亭」。明治の終わりに建てられた歴史的な建造物です。

そんな由緒ある場所で、マハーカルナー禅師による、瞑想初心者のための第一回メディテーション・ワークショップが開かれました。昨今のトレンドとして、ビジネスマンの間で「マインドフルネス」という言葉が広く認知されたり、最近では悪天候のためタイの洞窟に閉じ込められた少年たちが、いつ来るともわからない救援隊を待ちながら、真っ暗で食料もない非常に過酷な環境の中で、ずっと瞑想をしていたということが、全世界に報道されたりもしました。

世は空前の瞑想ブーム。おそらく今日も、地球上で数多くの人たちが瞑想について学んでいると思われます。でも、今ここにいる私たちのように、こんなにも美しく厳粛な環境の中で、瞑想を修習している者はいないのではないか、そんな気がする場所でした。

傳修院では、小部経典の『無礙解道論』の記述に基づいて、出来得る限りお釈迦様在世当時に説かれた、アーナパーナサティと呼ばれる瞑想法が教えられています。しかし本日はアーナパーナサティ瞑想法そのものではなく、前行、後行、姿勢、心がまえなど、いわば瞑想「そのもの」以外の「エトセトラ」について詳しく語られました。

以前から何度か聞いている事柄もありましたが、こうしてまとめて体系的にお話し下さると、とても覚えやすく勉強になります。本日の講義内容は、ビデオで記録されましたので、いつか近い将来、一般の方々にも公開されるでしょう。これはアーナパーナサティを学ぶ人のみならず、いわゆるマインドフルネス瞑想やラベリング瞑想、また座禅や密教瞑想などを日々実践されている人達にとっても、非常に有益な内容であろうと思われます。乞うご期待!

今日の禅師のお話で、非常に強く印象に残ったものを二つご紹介します。
まず一つは、「Vajra Sāvaka(ヴァジュラ・サーヴァカ)」という言葉。
これは「金剛(ダイヤモンド)の弟子」のことで、不動、不壊、不退転の菩提心を持った弟子を意味します(密教でいうVajrasattva金剛薩埵と同義)。私たちはお釈迦様からもう既に2600年も隔たってしまっているけれども、「私はお釈迦様の直弟子なんだ」と強く思うこと、少なくともそういう心意気で修行することが、瞑想の上達のために非常に大切だということでした。

二つ目は、「入出息を自分の業処(集中の対象)としてしっかりと確立させること」。
もちろん仏教には入出息の他にも様々な業処がありますが、もしひとたび、入出息を「自分の業処」と定めたからには、目覚めている間は出来得る限り自らの入出息に対して意識を向けていることが肝要だということです。もう自分には「入出息しかない」、自分は「入出息を気づいていられれば何もいらない」と思えること。いつもいつも入出息という対象を自分の心から離さないこと。
仏教徒としてこういう喩えは適切かどうかわかりませんが、ちょうど恋愛において「〇〇さんが大好き!」と思ったとしても、「〇〇さんのことを思い出すのは三日に一度」だとしたら、「本当に好き」ということにはならないでしょう。それと同じことです。「入出息と恋に落ちる」こと、「寝ても覚めてもずっと入出息に心を向けていること」が必要なのですね。

本日のワークショップに参加して、思い出した長年の愛読書があります。
それは、森下典子さんの『日々是好日 ー「お茶」が教えくれた15のしあわせー 』(新潮文庫)という本です。これは著者が十代から四半世紀ほどの間、はじめは意味が全然分からず、むしろ苦痛だった茶道という習い事を、ずっと止めずに継続したことで、ある日突然(著者の言葉を借りると「定期預金の満期のように」)、世界の見え方感じ方がガラッと変わってしまったという体験が綴られています。少しだけ引用します。

「人には、どんなにわかろうとあがいたところで、その時がくるまで、わからないものがあるのだ。しかし、ある日、わかってしまえば、それを覆い隠すことなどできない」

この本を読むと、お釈迦様が示された涅槃証悟を目指す「瞑想」(特に瞑想そのものではなく、それにまつわるエトセトラ)と、世俗的な「お茶」という違いはあるけれども、広い意味でこの二つは東洋の深淵な文化的背景を共有しているのだなということが、よく理解できます。「まえがき」だけでも人生を変えるくらいの名文なので、是非。

 

 

参学者Q